日本を通して宗教への理解を深める

リトアニアから九州大学で広人文学コースで修士課程を修了されたイグナスさん(Ignas Čepelė)にインタビューいたしました。イグナスさんは自身は現代日本の宗教を研究していました。

イグナスさん(画像:イグナスさん提供)

「神が登場する日本映画」に魅了される
日本の宗教に執心したきっかけは、イグナスさんの中学生の時にさかのぼります。
リトアニアではキリスト教の信仰文化が多いのです。なぜかイグナスさんは子供の頃から、キリスト教が自身にしっくりとこない感覚がありました。中学、高校生になりリトアニアの自然崇拝に興味を持っていたところ、宮崎駿のジブリ映画の「もののけ姫」や「千と千尋」に触れる機会がありました。作品に神のようなものが登場し、イグナスさんは宮崎映画を通して日本への興味がますます深まっていきました。そこには、リトアニアでは経験できないものが存在していたからです。
リトアニアで体験できることといえば、日本映画フェスティバルや、ヨーロッパでも注目されている「禅」「サムライ」について書かれた本を手入れることです。また武道にも興味があり、リトアニアにいた頃から空手を、そして来日後は弓道を習いました。
その後、2013年に入学したヴィリニュス大学では日本学を専攻し、2015年には奨学金で福井大学に1年間留学をしました。大学を卒業してから、日本の文部科学省の奨学金で2019年9月から九州大学大学院で人文科学府・広人文学コースの修士課程を学びました。

ヴィリニュスで神輿を担ぐ経験(画像:イグナスさん提供)
弓道をするイグナスさん(画像:イグナスさん提供)

日本での研究を通して感じること
日本の大学院では、フィールドワークとして、さまざまな伝統文化に触れたいと考えていたイグナスさんは、日本では山がたくさんあり、それは神や仏と同じで、聖なる空間であることと知りました。実際に、修験道(しゅげんどう)を体験しに、山伏の知り合いと一緒に山伏修行をしました。
広島の宮島では4月に3日間の修行体験をしました。宮島の寺にこもる前に、時計、スマートフォン、お財布などの貴重品を含む全ての持ち物を手放して山伏の服装に着替え、山を歩き、仏像に対面し祈ります。そして、瞑想、坐禅などを体験しますが、3日間誰とも話してはいけないというきまりを守らないといけません。2日目は山から降りて、清めをするため海に入りました。食事も下界にいる時よりも相当少なく、時計もないために何時かわかるのは唯一近くの時報が知らせる音だけ。お腹もそれほど空かなかったそうです。イグナスさんはくすと笑いながら「悟りは開かなかったです」と。けれども信仰心を持っている人を尊重できるようになりました。日本での研究を通して、宗教そのものを客観的に見ることができるようになったとおっしゃいます。

修験道体験時の写真(画像:イグナスさん提供)

日本の魅力を訪日客に紹介したい
2022年9月に大学院が修了し、11月からは日本で旅行会社のスタッフとして活躍することになりました。日本の自然に触れる中山道、四国の八十八ケ所巡礼、熊野古道のハイキングツアーを専門とした来日外国人向けの会社です。
イグナスさんがこれまで学んできた日本の文化や宗教、歴史の知識や経験を通じて、海外から来日する人々に日本を紹介できればと胸に期待を膨らませているところです。

自然崇拝をリトアニアで感じることができる場所
最後に、イグナスさんがおすすめするリトアニアの自然崇拝を感じることができる場所を教えてもらいました。
ヴィリニュスから東側の郊外にあるネリス川近くにある、プーチコリ教育トレイル(Pučkorių pažintinis takas)と呼ばれる自然豊かな散歩コースがあります。ヴィリニュスからバスで行けるので、ヴィリニュスの観光ついでに気軽に自然を感じられるおすすめの場所です。
そして、ネリス川沿いにある、ヴィリニュスからカウナス方面に車で1時間ほどの場所に、パヴィリニュス広域公園(Pavilnys Regional Park)があります。ここには6世紀ごろに作られたと言われている「カルマジンの自然観察路(Karmazinų pažintinis takas)」があります。元々は要塞として作られたのですが、その後古墳として使われた言われています。その近くにはデゥークシュトスのオークの林(Dūkštų Ąžuolynas / Dūkštos Oak Grove)があります。林の中にあるひとつの岩に意味が理解できない文字が彫られており、その岩はもしかすると、ペルクナスが崇拝されていた祭壇であったかもしれないと言われています。
ヴィリニュスに行った時に、リトアニアのリアルな自然を味わいたい方には気軽に行ける場所だそうです。