世界15大映画祭タリン・ブラックナイト ノミネート映画「鬼が笑う」

今回は、世界的に有名な映画祭のひとつ、第25回タリン・ブラックナイト映画祭(PÖFF)にノミネートされた映画「鬼が笑う」を制作された監督の三野龍一さん(以下、龍一監督)、脚本の三野和比古さん(以下、和比古(脚本))に映画制作と映画祭について貴重なお話を伺いました。
龍一監督と、和比古(脚本)のお二人はご兄弟です。そして、プロデューサーの三野博幸さんも同じ「三野」姓ですが親戚関係はなく、前作の作品を鑑賞され、三野兄弟と意気投合し、今回の作品ではプロデューサーとして名を連ねることになりました。

映画「鬼が笑う」が生まれた背景
「鬼が笑う」では、国内での劇場(映画館での上映)公開を目指しました。国内での劇場公開が決まる場合、海外の映画祭でノミネートされた作品や受賞した作品であることにより、日本で劇場公開の確率が高まります。
海外の映画祭で取り上げられやすい作品には、傾向があります。映画の内容にさまざまな国の人として登場人物が出演していることが多く、強い社会問題のメッセージがあるなどといったことが、海外の映画祭で上映されやすくなることがあります。これらの条件を含ませながら作っていったという経緯があります。
また、自身を従順にルールに従う人間ではなく、この日本社会で「生きづらい」社会不適合者と三野兄弟は自己分析しています。事象から距離を置き客観的な視点から、「変だな」「違和感あるな」と三野兄弟が日ごろから感じていることを本作で「我々はこう思っていますが、あなたたちはどう思いますか」と問題提起をしています。
観賞後に心の中に残り、帰宅後もそのことについて考える「余韻」を持たせる作品を目指していると語る三野兄弟。まさにそれを目指した内容とも言えます。

映画名「鬼が笑う」の意味
この映画は「愛の映画」として作られています。誰かのために良かれと思った行為が、別の方向から見ると全く違うこととして捉えられることもあると三野兄弟は語ります。
意味があるように見える行動が、実は無駄になることもある。しかしながら、行動を起こさなくて良いのかと言うと、そうではない。映画の中では、効率よく進めることができる人もいる。そして、不器用ながらも行動する人が損をする社会で、愚直にも行動する主人公は苦しみの中から、自分自身の中で答えを見つけていく……そのような世界を三野兄弟は映画の中で表現しました。
映画のタイトルの「鬼が笑う」は、ことわざで「来年のことを言うと鬼が笑う」と言われるように先のことが見えないので考えても仕方がないという意味です。作品の中で一生懸命伝えようと突き進む主人公を描いているからこそ、「先のことを知っても無駄じゃないか」と、敢えてハズしたタイトルに決めたと龍一監督は言います。

兄弟同士の自己分析から生まれる作品
映画の制作中の楽しさは「ほとんどない」と語る三野兄弟。自らが楽しんではいけないと言う感覚を常に持ち、映画を作る職人であるという思いから、作品制作の苦しさはその先の一瞬の興奮のためにあると考えています。
映画の撮影自体は2週間という短期間でしたが、各分野のプロフェッショナルを集め、無駄をなるべく省いた制作をして短い期間で撮影を可能にしています。
本作ではメインスタッフ20名、メインキャスト50名ほどが関わり、脚本は3ヶ月間かけ「三野らしさ」とはなんだろうと、鏡のような兄弟同士二人で行われるディスカッションの中で脚本を作っていきました。龍一監督はこれが楽しさであり、また同時に苦しさでもあると語ってくれました。

北欧最大の映画祭
タリン・ブラックナイト映画祭は毎年11月に開催される世界15大映画祭のひとつに属している北欧最大の映画祭です。会期中には250もの作品を上映し、ハリウッド俳優はじめ、世界中から映画専門家や関係者約1,500人が一同に介します。まだ日本では多くの方に知られていない映画祭ですが、タリン・ブラックナイト映画祭は世界的にも有名な映画祭です。カンヌ映画祭の上映を断りタリン・ブラックナイト映画祭への参加を決めた方もいるほど、その価値が高まっています。

三野兄弟はこの世界的に高い評価の映画祭で作品を鑑賞してもらい、世界の舞台で挑戦したいと考え、国際映画祭でのプレミアム上映を目指しました。
「鬼が笑う」はタリン・ブラックナイト映画祭のメインコンペティション部門でノミネートされました。メインコンペティションへは多くの応募作品の中から10作品ほどしか選出されず、「鬼が笑う」と同じ土俵に立つ作品は、高い予算で作られた作品や、有名な配給会社がついている作品が自ずと多くなります。「鬼が笑う」はそれらの作品と比べると低予算で作られたにも関わらず、メインコンペティション部門に選出されたことは、まさに快挙と言えます。

肌で感じられた映画祭
2021年11月12日からタリン・ブラックナイト映画祭は開催していましたが、メインコンペティションの受賞作発表は映画祭の一番の見どころのため最終日に行われます。そのため、メインコンペティション部門の上映と発表の日程に合わせた2021年11月19日からの1週間、メインコンペディション部門の上映に合わせ、主役の半田周平さん、プロデューサーの三野博幸さん、監督の三野龍一さん、脚本の三野和比古さんの4人がタリンに滞在しました。

コロナ感染拡大の影響で一度国内の映画祭がオンライン形式になり、三野兄弟もオンラインで参加しましたが、残念ながら人々の熱も直に感じられず「映画を作った」という実感がなく、本当にオンラインの向こう側の観客に鑑賞してもらえているんだろうかという定かではない気持ちで出席した経験がありました。
それに対してタリン・ブラックナイト映画祭では、観客と一緒に大きなスクリーンで映画鑑賞し、舞台挨拶の後、質疑応答というシンプルな作品発表の方法は「映画を作った」ということを肌で感じることができて非常に嬉しかったとリアルな映画祭に参加できた感覚を三野兄弟は語ってくれました。

三野兄弟がエストニアで感じたこと
龍一監督:
「エストニア人の感覚が日本人に近いなと思いました。程よい距離感で接してくれるので、心地良く過ごせました。現地でアテンドしてくださった女性も仕事に対する責任感が強く、時間に遅れてしまったら怒られてしまいました」

龍一監督、和比古(脚本):
「映画祭のロビーでも99%が女性全体的な印象として女性がしっかりして、強いと理解しました。副業も盛んで、アテンドしてくださった女性も学校の先生として働き、さまざまな副業をしているので映画祭も手伝っているということを聴き、面白いなと思いました」

龍一監督:
「近代的なビルが立ち並ぶ場所と、旧市街の街並みがほんの少しの距離で明白に分かれているのが不思議で美しい景色だと思いました。そして、治安がとても良く危険なところが少ないと思いました」

和比古(脚本):
「信用できそうな人が多く、『ちゃんとプライドを持って生きている』人が多かったです。逆に他のヨーロッパと比べても明らかに違う雰囲気だったので、別の場所に来ていると実感しました」

映画祭での作品の評価
ややもすれば、数字や出演者の知名度など作品そのものではないところで注目されることがあるのに、エストニアでは作品を通して伝えたかった内容そのものを観客が受け止めてくれたということが、非常に嬉しかったと言います。
エストニアでは、日本について知らない人がとても多く、映画の内容が苦しいので「日本はこういうところなんですか?」と聴かれることもありましたが、「もちろん良いところもたくさんありますよ」と回答しましたが、彼らが未知のものごとに純粋に興味を持ってくれたことは、ヨーロッパという音楽や芸術、映画が身近な土地柄のために、触れたことのない文化を受け入れる心の大きさを実感すると同時に、そのことを羨ましく思ったと龍一監督は語りました。

今後の目標
龍一監督:
「タリン・ブラックナイト映画祭で賞を受賞できず、タリン滞在の最終日は悔しすぎてやけ酒してしまいました。ですからもう一度映画祭に挑戦して、『楽しい』『やったな』という良い想い出として更新したいと思っています」

龍一監督:
「自他ともに認める作品を作りができて、海外だけではなく、日本国内のお客さんに観てもらえるようなクリエイティブな存在になりたいと思っています」

和比古(脚本):
「直に評価が出るという緊張感ある状況の映画祭で受賞したいという目標があります。映画業界全体として、日本や海外のさまざまな良い映画が多くの場所で広まって、映画業界が変わっていくのも夢です」

全国ロードショー
2022年6月17日(金)より、テアトル新宿はじめ全国の映画館で上映されます。できるだけ全国各地で舞台挨拶をしたいと語ってくださいました。映画館で三野兄弟に会えるかもしれません。上映劇場の詳細はこちらをご覧ください。