エストニアで820km歩いたドイツ人

エストニアで2ヶ月のハイキングをしたSvenja(以下スヴェンヤ)さん、Alex(以下アレックス)さんのお二人にインタビューをさせていただきました。お二人はドイツの南部、シュツットガルト出身です。おふたりに、普通の人がなかなかできないエストニアでの820kmを完歩した経験を語っていただきました。

スヴェンヤさん(右)とアレックスさん(左) (画像提供:zeitreisen.home.blog)

2019年4月アレックスさんの誕生日に、シュツットガルトからバックパックを背負い、トルコのイスタンブールを目指し3,000km以上!ものハイキングを始めました。予算は1日10ユーロ(ひとり5ユーロ)と決め、二人はほとんどテント泊をしていました。そして、シュツットガルトを離れてから5ヶ月後イスタンブールに到着してからは、ヒッチハイクで、トルコ国内、ジョージア、アルメニアと東へ東へと移動しました。

旅に出た理由
27歳の時に、何か新しいことをしたい。まだ体験したことのないことをしたいと2年間考えた二人は、ドイツでの生活、仕事を手放し、他の世界を自分の目で見たいと思うようになりました。そして、ドイツから東に向かうことにしました。

アルメニアでの10ヶ月
時はコロナが世界を席巻する前の、2020年2月。アルメニアの首都エレバンに二人は到着しました。幼稚園でドイツ語を教えるなどしながら数日過ごしました。その後、二人はアルメニアの南部カパンに移動しました。カパンでは5月までボランティアをしたり、ハイキングをしながら、ハイキングのスポットを更新する仕事をしていました。要するにハイキングが二人の仕事になりました。
その後、山から水を汲んで生活するような小さな村のコテージで働く仕事に誘われました。夏ごろまでコテージで二人は働き、原始的な生活を経験しながら、まるで小さな島のような環境でハイキングをたくさんしました。
その後、首都であるエレバンに戻りましたが、アルメニアとアゼルバイジャンの紛争地域での衝突が発生してしまったのです。そして、コロナ感染拡大防止のために、アルメニアから出国することができなくなりました。
そこで高性能なカメラを携帯していたので、アルメニアの素晴らしい景色をみんなに見てもらいたいと考え、二人は少しずつYoutubeを始めました。

Alex & Svenja Youtube 「zeit reisen」
エストニアで撮ったYoutubeはこちら


エストニア人に出会う
アルメニアには結果的に10ヶ月滞在していました。ドイツの家族や友人らは心配して「戻りなよ」と説得された二人は、なかなか戻る決断ができず考えあぐねていました。
実は、ジョージアで出会ったエストニア人のLisa(以下リーサ)さんが、「旅を続けるなら、エストニアの我が家のサマーコテージが空いているから、おいでよ」と誘ってくれていたので、二人は「エストニアに行かない理由はない」とアルメニアからエストニアへ向かうことに決めました。2020年12月に空路でリトアニアに向かいました(当時はコロナ禍のため、空路だけがアルメニアから出国できる唯一の手段でした)。リトアニアで2週間の隔離期間を経て、バスでエストニアに向かいました。エストニアでも同様に2週間の隔離期間を過ごしました。タリンはそれまで滞在していた場所と比べて、全てが文化的で近代的でした。そして、エストニア人の背が高くて大きい体格というのが印象的でした。
冬のタリンの第一印象は太陽が少し出て、すぐに沈んでしまうのでとにかく「暗い!」でした。氷点下15度、20度は顔が痛くなるほどで、二人は玉ねぎのように何枚も重ね着をして寒さをしのぎました。

タリンの旧市街(画像提供:zeitreisen.home.blog)

ラヘマー(Lahemaa)国立公園のレイシ(Leisi)という集落にあるリーサさんのサマーコテージに向かいました。サマーコテージは夏でこそたくさん人がいますが、冬はほとんど人はおらずその集落には3家族がいるだけでした。もちろん水道は凍りついているために使えず、家から50mの場所に井戸があり、水を汲む生活でした。50年前に作られたサウナもあり、薪を作り、筋肉がつきました。友人たちは、アルメニアと同じ環境じゃないかと二人に冗談を言い、笑いました。


レイシのサマーコテージから食料の買い出しに行く場合は、1週間に1度の無料バスでロクサ(Loksa)という町にある一週間のうち金曜日の3時間ほどしか開店していない商店に向かいました。


食べ物
二人がエストニアに来てから嬉しいと思ったのは、ライ麦パンがあることでした。アルメニアでは小麦の白いパンや、薄いピタパンのようなパンしかなかったのですが、エストニアでは、ドイツでもあるようなパンがたくさんありました。また、お菓子のKohuke(コフケ=カッテージチーズのチョコレートコーティングしたお菓子)は特に気に入り、さまざまな種類をたくさん食べました。ただ、彼らはアルメニアやジョージアのフレッシュで美味しい果物(ざくろ、桃、ぶどう)や野菜の味は忘れられませんでした。

エストニアでハイキング
2021年5月、サマーコテージを離れ、アレックスさんはコルガ(Kolga)Monor という荘園修復をするボランティアをしました。元々生物学者だったスヴェンヤさんは植物を育てる仕事をしました。
そして、7月末に840kmのハイキングトレイルを実行することにしました。出発はエストニアの西、ペラクラ(Peraküla)でした。アレックスは20kg、スヴェンヤは12kgのバックパックを背負い歩きます。彼らにとってそれほどの重さではありませんでした。ドイツでは、それぞれ30kg、20kgを持ってハイキングをしていたということと、エストニアの土地は平らなので、全く問題ありませんでした。

RMK(森林管理センター)のアプリ
二人が使っていたRMKというアプリケーションは、エストニアのハイカーのためのルートやポイント案内しているシステムです。GPSを捕捉して、99パーセント以上は良いハイキングの道を誘導してくれました(タリン近くの大きな道路は少し危ないと感じました)。
1km毎にマーキングがあるため、迷うことはありませんでした。
二人のハイキングは、以下の地図の西側(左)から南(下)の経路を辿って行きました。ルートは、Peraküla-Aegviidu-Ähijärveです。全行程820kmを38ヶ所で宿営し、2日間は ヴァルスカ(Värska)に泊まり全ての工程を40日間で終えることができました。

エストニアのハイキング軌跡 (画像提供:zeitreisen.home.blog)

エストニアのハイキング 8つのポイント
1.アブ対策
アブや蚊がたくさんいて、途中からそれらの攻撃に耐えられなくなり、長袖と長ズボンに変えました。これらが一番必要なものです。

2.テント設置場所
基本的にどこでもテントを設営できます。エストニア人は問題があるときだけ声をかけてくれ、それ以外は放っておいてくれました。

3.トイレ
トイレットペーパー付きのコンポストトイレがあり、匂いもしないとても良いトイレでした。仮にトイレがなく、困ったときは誰かに聞くと、親切に教えてくれました。

4.キャンプの場所
地図にキャンプサイトの場所があり、避難所など案内されています。清潔に整備され、休むこともできます。火を起こす炭もありました。タリン近くの1ヶ所のキャンプサイトはゴミが散乱するなど汚かったのですが、それ以外の場所はとても過ごしやすいと思いました。全体を通して感じたことは、エストニア人は自然をとても大事にすると強く感じました。

5.遭遇した動物たち
二人とも大きな動物に会いたいと思っていましたが、残念ながらヘラジカや熊を見ることはできませんでした。熊は非常に近くにいると漁師の人に教えてもらいましたが、大きな足跡だけしか見ることができませんでした。水辺には蛇(有毒、無毒)をよく見ました。

6.美味しい森の食べ物
二人は森にある、野生のいちごやブルーベリーを毎日のように食べていました。ある場所は他に誰も人がおらず、食べ放題の場所がありました。また、マッシュルームや杏茸も簡単に見つけることができました。時期としては、6月中旬から見かけることがありましたが、8月に雨がたくさん降ってからは、きのこ類がたくさん生えていました。(注意:ベリーやきのこは毒性のきのこがありますので、詳しい方に必ず確認して食べてください)
森のきのこを摘んだら、20kmほど歩くとよい具合に疲れます。フライパンを用意して、パスタと一緒にきのこを焼いて外で食べると最高の料理になります。これは全ての人におすすめです。

森で自生している杏茸(画像提供:zeitreisen.home.blog)

7.シャワー
ハイキングルートには池や川があります。10km毎に毎日別の池に入ることができます。非常にきれいな水で水深は5、6mほどです。水の温度は温かく気持ちが良かったです。ある男性はそのまま湖の水を飲んでいました。衛生的にあやしいので、二人は湖の水をそのまま飲むことはしませんでした。

エストニアの湿地帯にある池がシャワー(画像提供:zeitreisen.home.blog)

8.欠かせない電子機器の充電
二人はハイキングの途中でトレイル沿いの商店かRMKビジターセンターで電子機器の充電ができました。
商店で充電する場合
営業時間を確認します。充電に必要な時間がどれくらいあるかを計算します。食料品を購入し、充電をさせてもらえるかを確認します。。スマートフォンまたはGPS機器と充電池を同時に充電しました。4時間ほど近くで休憩して満充電にします。
GPS機器のリチウム電池は1つで10時間持ちます。この電池は4本あるので、毎日充電する必要はありませんでした。また、エストニアはトレイルの目印がたくさんあるので、GPS機器での補足はそれほど必要ないです。(セルビアからトルコのイスタンブールまでのハイキングでは、ポイントがあまりなく、GPSを使わないと迷う恐れが大きかったです。)
RMKビジターセンターで充電する場合
KiidjärveRMKビジターセンターのスタッフの方は、来訪者にとても親切でした。二人は充電も当たり前のようにでき、23日ぶりに本当の「シャワー」を浴びることができました。その後近くのテントエリアで過ごしました。

おすすめの短いコース
二人のおすすめの2、3日でできるハイキングは、彼らが出発したペラクラ(Peraküla)付近です。バルト海を眺めながら、海岸を歩き、松林が生えていたり変化に富んだ自然に触れながら歩けます。ルムウ(Rummu)は建物が水の中に沈んでいる場所でした。

ルーム(Rummu)の採掘場跡(画像提供:zeitreisen.home.blog)

もう一つのおすすめの場所は、ロシアとの国境近くの、セト(Seto)地域の伝統的な民族衣装を身につけた人々、美しく塗装された家々を見ることができます。二人はバルスカ(Värska)からセトに向かいました。バルスカの森は軍の基地だった場所で、街は廃墟になっていましたが、昔の人々が住んでいた雰囲気を感じることができてとても良いコースです。バルスカからセトへの道は商店が少なく、食べ物を調達することが難しかったですので、ハイキングで行かれる時には注意してください。

フィンランドへ
2021年8月に二人はエストニアでの40日間のハイキングを終え、フィンランドについてさまざまなことを聴き、どうやらボランティアの仕事がフィンランドでできそうだという情報を得て、フィンランドに行くことにしました。そして、スイス人がラップランドで観光客向けにハスキー犬がソリを引くビジネスをしている場所で3ヶ月働きました。しかしながら、スベンヤさんの妊娠がわかり、フィンランドで子供を産むことに決め、ハスキー犬の仕事を離れることにしました。
二人は現在(2022年3月現在)、ヘルシンキから28km離れた場所に住んでおり、アレックスさんはプログラミング知識を活かした仕事をしています。カザフスタン、キルギスタン、モルドバには自転車やキャンピングカーで行こうと考えています。特に日本にはアニメのワンピースのファンなので、いつか行くのが夢です。
スヴェンヤさん、アレックスさんから、たくさんの画像をいただきました。ぜひ、エストニアの美しい画像をご覧ください。
(画像提供:zeitreisen.home.blog)

スヴェンヤさん、アレックスさんのより詳細な旅の話は、ぜひ以下リンクからご覧ください。現在の生活やエストニア以外の旅の内容や写真も豊富に記されています。まだまだ東への旅は続く予定です。彼らがいつか日本の地を踏むのを楽しみに旅の基金などで支援するのも一緒に旅をしている感覚になれそうです。

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