「ダメなら、また戻ればいいんだよ」ワヒ・ヤグップさん

今回は、Tartuのアマチュアサイクルロードレースチームに所属していたワヒ・ヤグップさん(以下ヤグップさん)にお話を伺いました。

ヤグップさん(画像:ヤグップさん)


半年かけて計画した、日本でのトレーニング

時は10年前の2011年にさかのぼります。当時ヤグップさんは警備員の仕事で得たお金は、自転車のロードレースのための活動に充てていました。
ロードレースのトレーニングとしては山があり、温かい場所で行うのが一般的です。エストニアは基本的に山はない(最高峰は318m)ので、ロードレースの練習としては物足りないのです。そのため、練習には国外に行かねばなりません。ヤグップさんは半年のさまざまな調査から、練習の環境として良いと情報サイトでリストの一つにあった日本の福島で2ヶ月間トレーニングをすることに決めました。

ヤグップさん(画像:ヤグップさん提供)


しかし、ヤグップさんが日本の成田空港に降り立った日は2011年3月19日。それは誰しも忘れない東日本大震災の日から数えて8日目でした。ヤグップさんにとっては半年前からずっと計画していたトレーニングの地である福島への第一歩の日でした。
成田空港で、「福島に行きたいのですが・・・」と聴くと、口々に行く手段がないと全員が言うではありませんか。当時のヤグップさんは福島の災害の甚大さを言語の壁により、しっかり認識できていなかったのです。

自転車で3日かけて福島に到着

東京での滞在費は、すべての生活費を1日4,000円までという予算を予定したヤグップさんにとって高すぎました。そこで、ヤグップさんは必ず必要になる荷物だけを持ち、なくても困らない服を捨てて、自ら持ってきた自転車に乗り、福島を目指すことにしました。
宇都宮まで1日、白河まで2日の合計3日かけ、目的の福島に到着しました。

福島の仲間にまた会いたい

当時はほとんど友人もいない中、英語が話せて仲良くしてくれたのは居酒屋のオーナーでした。トレーニングのための滞在期間は約2ヶ月間。福島の人々の優しさ古い国の奥深さにますます日本が魅力ある場所に思えました。帰国するときも福島から、自転車で成田空港まで向かいました。

馴染みの居酒屋のオーナーとお店(画像:ヤグップさん提供

その翌年の同じ頃に、再びヤグップさんは福島を訪れることにしました。理由の一つは地震と原発による甚大な被害を受けた福島の人々が頑張る姿に感銘を受け、もう一度人々に会いたかったのです。そして、居酒屋で英語の勉強をしていたのちに人生のパートナーとなる女性と出会いました。

ヤグップさんと妻のナツコさん(画像:ヤグップさん提供)

ダメなら、また戻ればいい

2012年にヤグップさんは日本で結婚され、2人のお子さんも産まれて父となり福島の生活では、義理のお父様が経営されている仕事に従事していました。義理の両親とも同居の生活を送っていたため、日本語の習得は必須となり、毎晩頭が痛くなるまで日本語を覚えたのです。その後、2017年4月にエストニアに家族を連れて戻りました。
福島からエストニアのタルトゥに住んだのは、日本も好きだけども、エストニアの生活もしたいので、エストニアに行ってみてダメならまた日本に戻ろう。そんな気持ちで一家移住を決めました。

自分の手で自分の城を作る

タルトゥ中心地から4kmほどの場所に、ヤグップさんの96歳の祖母が住んでいる家に同居することになりました。現在、ヤグップさんは兄の会社で現在建築に携わっています。街の石畳を敷いたり、個人宅の設備を施工する仕事をしています。
しかし、ヤグップさんは現在子供が3人となり、手狭となったので自宅を自分で50平米を増築するため、現在は請負の仕事は控えめにしています。2万平米もの庭に、じゃがいも、にんじんなど、野菜各種を育てています。鶏も育てているので新鮮な卵も食べられます。サウナもあるので友人が来るとサウナとBBQを楽しみます。
ヤグップ目標エストニアと日本の2拠点生活ができれば良いなと考えています。


観光でエストニアに来る人にヤグップさん流おすすめ

タルトゥに来て欲しいです。タリンはヨーロッパの街という雰囲気ですが、タルトゥはエストニアの街の雰囲気です。
ゆったりとした速度でエストニアの人々が暮らす街がタルトゥです。
街はそれほど大きくなく、すぐに一周できます。しかし、教会、古い建造物があるので歴史を知ることができます。タルトゥの街を歩きや自転車で巡り「エストニアの日常」を感じてもらいたいです。

タルトゥ旧市街(画像:ヤグップさん提供)


ヤグップさんの肩に力が入っていないひとこと、「ダメなら戻ったらいい」この言葉にインタビューでは大きく頷きました。
何ごとも試す前に諦めることは多いと思います。失敗することは誰しも怖いことですが、時に失敗したらまたやり直そうよというくらいの心の余裕を持っているヤグップさんとご家族のおおらかさ見習うことも必要だと思いました。